2017-01-01 00:57

■月兄弟を取り巻く日常の風景

■月兄弟を取り巻く日常の風景。皆はたぶん悪気も無く真剣に口下手だったんだよ。

セシルはどこか遠くを、ただ見ている。
次元城の片隅の草むらに座り込み、膝を抱えて、ただ物憂げに遠方を見ている。ゴルベーザがそんな姿を見付けてから――恐らくはそれより前からずっと、彼は遥か遠い空の彼方を見詰めていた。

(……)

どうしたというのだろう。
何か近寄り難い雰囲気があり、声を掛けるのも躊躇われたが、ゴルベーザは意を決して何食わぬ顔を装い、さも偶然通り掛かったのだという風にして隠れていた壁際から姿を現して、そうした弟の傍らへと歩を進めた。

「何を塞ぎ込んでいるのだ、セシル」
「兄さん……?」

セシルは少し驚きはして振り向くが、現れたそれが兄だと気付いての安堵もあってか、直ぐに目を伏せ、首を傾けて顔ごとで視線を逸らす。銀の睫毛が白磁の頬に影を作り、微かに開かれた唇からは気だるげな吐息が漏れた。
茫然自失としたその姿に、どうこうと叱咤するのもまた躊躇い、ゴルベーザはそんなセシルを見詰めるだけで何も言えずに口を噤んだ。

「……」
「……」

風として吹き抜ける澄んだ空気が、今は妙に重く感じられる。
空の青さも、目に痛い。場を占めるこの静寂に圧倒されるというような、そんな錯覚さえ覚える。
そうして、それなりに長い時を経て――遠い彼方を見据えたままで、セシルは口を開いた。

「僕は綺麗な顔をしてるって、皆に言われたんだ……」

搾り出すような声音で、言う。
綺麗だ、とは。それは、まるで男らしくは無いとでもいうような言い方ではあるが、そのくらいの事で……とゴルベーザが考えたのを遮るようにして、セシルは続けた。

「──『凄く綺麗なオカマ』みたいだ、って」
「……」

己の言葉が追い討ちにでもなったのか、セシルは言い終えてから小さく呻いて、より深く俯く。
自身の膝に顔を伏せた弟を見下ろして、次いで軽く空などを見上げてから目線を戻して、ゴルベーザが尋ねた。

「おかま?……とは、何だ?」
「……」

――更なる追い討ちだった。とどめ、とも言える。
セシルは戦慄く唇を一度噛み締め、息を飲み、息を吐いて、答える。

「…………女装をした男とか、女装趣味の男だとか、そういう、それだよ」
「……ああ」

その説明にゴルベーザが頷き、それからしばらくの間を置いてまた頷いたのを見て、セシルは弾かれたようにしてその場に立ち上がった。

「に、兄さんまで……!兄さんまで、そんな風に思うんだね……僕がそんな――男の女装に見える、って……!!」

吠え掛かるような勢いで捲くし立てられ、ゴルベーザは大きくかぶりを振る。待て、と制止の意味で弟の眼前へと手を突き出し、弁解した。

「いや、そんな事は――無いぞ? ああ、言い得て妙だとか、そうした事は一切合財考えていない」
「ひ、酷いよ、兄さんまで……揶揄だとかならまだしも、どうして皆、そんな本気の目で言うんだよ!!!」

セシルは両の手に拳を作り、固く握り締めてはわなわなと身を震わせる。
冗談では無く悪気も無く、本気でそう思われ、そう言われたのだという事こそが、セシルとしては衝撃だった。驚きだったのだ。故に、激昂もした。

「皆も兄さんも、酷いよ……僕をそんな風に見ているの?僕はそんな風に見えるの?……そんな、酷い。酷過ぎる。あんまりだ……!」
「泣くな、セシルよ……」
「怒ってるんだよ!!!」

ゴルベーザが慰めるつもりで口を挟めば、激しい剣幕で返された。
いつに無い様子でいきり立ち怒鳴るセシルに、ああ、彼にもこういう顔があるのだなとか遂に遠慮など無い素の表情を見せてくれたのだと、新鮮な驚きと感動とを感じもしたが、いや今はそうした場合では無いとゴルベーザは努めて気を切り替える。

「兄さんも……兄さんまで、そんな風に僕を見ているんだ……!」
「いやだから、それはだな……」

弟が傷付き憤慨をするのも尤もで、しかしそれを言った側につい同意してしまったゴルベーザは、儘よ、と心中で言い捨てると改めてセシルの眼前に手を翳した。そしてまた何を言われるより早く、兎に角の説得を試みる。

「それは……そう、お前の筋骨は実に見事に男性的であり、騎士として申し分の無い逞しい体躯だ。しかしその割に、お前は美しい。精悍であるというよりもただ美しい、顔立ちも仕草も華麗だ、いやむしろ可憐だ。見目の麗しさもさる事ながら、立ち居振る舞いもまた美麗で、そして、愛らしい。声音もまるで鈴を転がすようで――ああ、それら要素と要素との差異が、きっとある種の違和感とも相乗効果とも成って、要はお前がそうも凛々しく逞しくも美しい人であるからこそ、彼らも…………」

――何を言っているのだ、私は。
ゴルベーザがそうと気付いて声を潜めた時には、牙を剥くようにして息巻いていたセシルもそこで唖然として立ち竦んでいた。

「何を……言うんだ、兄さん」

ゴルベーザが己で思った通りを、弟にまで指摘される。
セシルは見る見るうちに赤くなり、灼けたその頬を手で覆い隠した。

「か、可憐だとか、そういうのは、大の男に対して言う事じゃないよ……」
「――お前にだから、言ったのだ」

ゴルベーザが慌てて返せば、思わぬ言葉が口を出た。言われたセシルは更に朱を上らせて、兄を前に頻りに目を瞬かせる。
今、言われた言葉。今、言ってしまった言葉。ああ。どうしよう――どうしたら。そう、お互いが思った。

「……え、ええと……その……う、嬉しいよ……」

セシルは酷くうろたえ、言い淀んだ挙句に礼をして、ゴルベーザもまた答えに困り、兎に角そこで頷いた。
風が、二人の外套をはたはたと煽り、翻す。無為に棒立ちとなり無意味に見詰め合い、無意義に時だけが過ぎた。








そんな次元城の城砦の、その塔の天辺にて辺りを広く見渡して、遥か下方にて無駄に並び立つ兄弟をも見下ろして。

「――無は、総てに平等だ」

うむ。そうと言って、エクスデスはひとり得心した。




<終>
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