2017-01-01 00:45

■セシルと小さくなった兄さんと

■リクエストで書かせて頂いた「小さくなった兄さんとセシルのほのぼの」。状態変化:子供化。
また一つ、世界の法則が乱れた。


かの大樹の台詞を借りて、現状をどうにか説明付ける。
――ああ、何か見間違えたか幻でも見ているのかと、セシルは頻りに目を瞬かせた。

争い、薙いでは打ち、或いは射ち。壊し壊され、因果は廻り。
永遠に繰り返されては続くかと思われた闘争の、その均衡がいつしか崩れ、狂いもして。一方が敵を圧倒し、一方は劣勢に追い込まれた。
それらの変動は、各々が属する神の意力をも揺るがして、そうした余波が世界の更なる変化を生み――セシルはまさしく驚き留まって、眼下の姿を見詰めた。




それは、ある日ある時の、戦場にて。
コスモスの側の騎士であるセシルは、カオスの側の魔人――兄であるゴルベーザと交戦をして。剣を振るいながらも言葉を投げ掛け、拒まれ、つい怒鳴りもした。怒鳴られもした。
そんな最中の、ある一瞬の出来事だった。

「!!」

一体それは何なのかと、考える間すらも無かった。
爆発?閃光?そういうものが、そこで弾けた。不意に、二人を巻き込む形で”何か”が沸き起こり、避けるも何も出来ないままに渦中へと飲み込まれて、視界が不思議な光に包まれて……ぽんっ、と場違いに軽い音がして。
その眩い輝きに目を煽られて、そこに星々が散ったようにも見えた。まるで、おもちゃ箱を引っくり返したというような――そんな、きらきらぴかぴかとした具合に。




光の名残が、微かな煙霧となって立ち昇り、やがて風に吹き消され、掻き消える。
閃きの中に覆い隠されていた二人の姿もやがて露わになり、セシルは己と同じ闇色の鎧をそこに探して――在るべき姿を見失い、それとは違う何かをそこに見付けた。

「……」

ここは戦場だ。コスモスの側かカオスの側か、そのどちらかに属する者のみが集い、争う為の場所だ。
更に別に、召喚石を介して呼び出される者達も居るが、それはいわゆる例外とか特例というものであり、そして彼らは決まって人外の者であり――セシルが今、目にする『彼』は、ただの人であるように見えた。

「……」

交戦の痕跡がつぶさに窺える、半ば瓦礫と化したこの城塞の中に立つのは、これら大破壊を巻き起こした、かの魔人などでは無くて。見た感じで言うならば、齢は10に達しているのかどうかという、少年が一人、そこに居た。
見目の幼い彼が纏うそれは、戦士としての装備や衣装では無くて、旅装束の類ですら無く、本当に普通の服、ただの町人然とした簡素なもので。本当に、ただの普通の子供に見えた。

……こんな所に、子供が??

何故、どうして、いやそれより兄さん……ゴルベーザは何処へ消えたのかと、順繰りに考え巡らして、セシルは目を見張り――彼もまた、向かいに立つ暗黒騎士の姿に驚いたのか?少年は、目線を逸らして。
彼は、そこでどうしてか、己の手などを見て……まるで、己の姿形を確かめるような仕草をして。
やがて少年はたじろぎ、後すざる。セシルもまた、知らずに姿勢を固くして、互いに怯み、互いを窺った。
こんな所にただの子供が居る訳が無い、という思いから、恐らくは魔物やその眷属だと判断し、セシルは手にした暗黒の剣を構える。
しかし、何かどうもし難い引っ掛かりを感じて、まじまじと少年を見詰め、眺めて。
まさか。いや、もしかして――幾重にも思考を重ね、考え抜いて。

「……兄さん……?」

どうしてか、そう思った。
問われた少年は、呆けたような戸惑うような複雑な表情でセシルに目を返して――こくりと一つ、頷く。
二人は共に立ち竦み、驚き留まり……先に正気付いたセシルが、飛び掛かるような勢いで身を躍り出した。

「に、兄さん!?」

思わず振り出した手のやり場に迷い、セシルは一先ず剣を収め、改めて彼へと向かう。
落ち着こうという気も起きず、明らかに慌てふためき、小さな身体をただ見詰めた。

「兄さん……こ、これは、一体……どうして?!」

根拠も無く、だが、彼は間違い無くゴルベーザなのだと確信をして、故に募る困惑のままに、セシルはその姿を上から下へと眺めては尋ねる。
少年――ゴルベーザは、また己の身体を見返して、ふと挙げた手を閉じては開き、苦く唸って、項垂れた。

「――これは、……」
「ど……どうして、こんな。兄さん、だ、大丈夫なの?」
「……黙れ!そちらから尋ねておいて、口を挟むなっ!」

酷く動転してしまい、気が逸るばかりのセシルを、小さな彼がきつい口調で叱り付ける。
びくりとした弟を一瞥し、ゴルベーザは重く深く息を吐いた。ああ。その肩が落ちる。いつもとはまるで違う、己の幼い声を気にしてか、喉元に手をやり、ゴルベーザは再度唸った。
……あたふたと喚く姿が横にあれば、せめて己は冷静であらねばと促されもするもので。おかげで奇妙に気は休まって、けれど、ここで感謝をするのも変な話で。セシル、いいから、落ち着け。ゴルベーザは言う。

「ご、ごめん」

そう謝って、恐縮はしながらも、姿も声も違えどもそれはいつもと変わらぬ兄の叱咤に、セシルは安堵する。
咎められたのに、どこか嬉しそうに答える弟を見上げ――セシルに見下ろされるというこの状況を、更に妙だ変だと感じつつ、ゴルベーザは続けた。

「……わたしはカオスの召還を受けた身であり、カオスの力でもって、ここに存在している。カオスによって生かされている、とも言えるな」
「うん」

小さなゴルベーザの解説に、暗黒騎士は厳つい兜を上下にして頷く。

「お前は……何か、変調などはないのか?」
「うん、大丈夫だよ」
「では、つまりだ、わたしにだけ変化があったという事は、われらの原点であるカオスに何かがあったか、またはカオスの……混沌の力の廻りなどに乱れがあったのか、それで、このような……このような状態異常に至ったのではないか、と……」

語る事で思案を纏めているのだろう、セシルに言い聞かせるというよりかは、壁にでも話し掛けるようにして、ゴルベーザは早口に粗雑に――時には言葉を澱ませて、そう言い連ねる。
普段であれば、敵を相手にべらべらと語る奴が居るものかとセシルとは話をする事すら避けていたりもするのだが、今はそうした節度などが頭から抜けているらしい。それ所では無い、というのもあるのだろうが。
――兄とて、多分、やはり、動揺をしているのだ。

「予兆、だとかは……?」

もはや顔さえ上げずに思考に沈むゴルベーザを窺い、セシルは躊躇いがちに口を挟んだ。

「いや。先程の奇妙な……うねり、か?それに巻き込まれた途端に、急激に力が失われて……あれが、世界の歪みというか、混沌の力のひずみであったのかな。もしもあの時に空を飛んでいたなら、そのまま落ちて死んでいたな」
「そ、そんな……、危なかったね……」
「ああ、飛ぶ事はおろか、魔力自体が……っ!?」

唐突に、突然に――忽ちに。視界が転じて、視点が変わる。
ゴルベーザは不意の浮遊感に驚いて、俯けていた首を振り上げて、ひょいと彼を抱え上げたセシルを睨んだ。

「な、何をする!?」
「だって、飛べもしないなら、危ないじゃないか。ここは足場も悪いし、転んで怪我をしてしまうかも」
「兄を子供扱いするな!!」
「でも、ほら、今の兄さんは子供じゃないか……」

セシルはゴルベーザを横抱きにする。
そしてそのまま、すたすたと歩き出した。

「こ、こら!!」
「こんな所で、ただじっとしていても危ないでしょう。交戦の余波を嗅ぎ付けて、イミテーション達が寄って来るかも知れない。一先ず、僕らの所に……は、まずいかな」

胸に抱いた兄へと向けて問えば、首を縦に振って返される。

「わたしは、混沌の戦士だ。カオスの変調……か、どうかはまだ分からんが、それをコスモスの側に知らせるような事をする訳にはいかん」
「そう、だよね」

厳格に、けれど子供らしい幼い声音でそう言われて、ああ、可愛い、とか、微笑ましい、とか。いやいや、そう考えては兄に失礼だ不謹慎だと、セシルは込み上げるものを内心では必死に堪えて、とにかく歩き続けた。

「神の力が失われると……こう、本来より足りない感じになっちゃうものなのかな」
「ああ。ただの極めて特異で特殊な異常事態だ、という気もするが……」
「どうすれば良いのかな……」
「どうでもいい、まずはわたしを降ろせ」
「駄目だよ」
「……頑固な奴だ」
「兄さんこそ」

そうして居なければ体勢が悪い、という事でもあるが。ゴルベーザはセシルの鎧の胸に凭れるようにして寄り掛かり、身体を預けている。

「子供の頃の兄さんって……こんな感じだったんだね」
「……余所見をするな」

常時とはまるで違う、軽い身体が不思議でもあり、やっぱり可愛くもあって。セシルは兜に隠して微笑んで、今は小さな兄の重みに浸る。

「……怒られるかも、知れないけど」
「何だ」
「本当を言うと、こうして、僕の知らない小さな兄さんに会えて、ちょっと嬉しいんだ」
「……」
「ううん。本当の本当は……凄く、嬉しい」
「……そうか」

無意識になのか、故意にそれをしたのか?ゴルベーザはより近くへ身を寄せて、セシルの暗黒の小手に手を重ねた。しかし、顔は下へ向いていて、表情などは窺えない。
……僕は兜をしているから、顔なんか見えないから、これでちょうどお相子だけど。そうセシルは思い、ああ、いつもとは手の大きさまでまるで違うな、なんて事も考えた。

やがて城砦跡を抜けて、戦場の狭間を踏み越えて、渓谷の崖下を巡り、適当な岩陰を見繕う。
いい加減に降ろせと急かされ、どやされて、セシルは膝を折り、膝をつき――名残惜しいとは思いながら、そこで兄を手離した。
漸く解放されて、ゴルベーザは軽く腕を振り上げ、伸びをして。それを見詰めているセシルに気付き、ふいと横へ顔を逸らした。

「ああ、そうだ」

セシルは、ぱん、と手を打ち、うん、と声に出して頷いて――瞬時に黒をはだけて、聖騎士のそれへと姿を換える。

「どうしたのだ?」
「これでまた、お相子だね」

振り向き、首を傾げたゴルベーザに、セシルは歩み寄ると身を屈め、目線を合わせた。

「何だ。何の話だ?」
「お互い、顔を見て話せる」
「……」

じっと見詰められて、真っ向からの目と言葉とに面食らう。ゴルベーザはまた顔を背けて、こう、庇ってくれた事には感謝するが、馴れ合う気は無い、などと言って。岩場の出っ張りへ立ち寄り、ぶっきらぼうに腰掛ける。
セシルも、その隣に並んで座った。

「お腹とか、空いていない?……とは言っても、ポーションくらいしか無いけど」
「自分で飲め」
「じゃあ、半分こにしよう」
「……」

ただ気軽に、淡々とは話すが、そうしたセシルの口振りには有無を言わせない勢いがあり、ゴルベーザはそれ以上には何も言わず口を挟まず、瓶を取り出す彼の挙動を黙って眺める。
蓋を開け、いくらかを飲み、セシルはそれを手ずから差し出した。
ゴルベーザはまた無言で受け取り、瓶の口に口を付けて、残る中身を喉へと下す。
そこで唐突に、あっ、と漏らしたセシルへと目線を送り、訝しげに眉を寄せた。

「……今度は、何だ」
「うん。ああ、間接キスだなぁ、と思って」
「……」

何を言っているのだ、お前は。
そう言おうとして、しかし、ああどうでもいいかと、やはり口には出さずに聞き流す。そして、ゴルベーザは改めて瓶を呷り――そのまま一息に全て、飲み干した。
回復薬の効果が腹の内から回り、じわりと身体に熱さを感じて、ゴルベーザは軽く息を吸い、息を吐く。
セシルも同じように息をついていて、二人は顔を見合わせて、互いを笑った。
ああ。全く……お前は。

「何を浮かれているのだ……さっきから、へらへらとして」
「だって、やっぱり嬉しいから。何であれ、僕の兄さんとこうして、二人で一緒に居られるのだし」
「……ふん」

ゴルベーザは、腕組みをしている。いつも、彼はそうしている。
頑なな態度だ、とか寂しく思っていたけど、もしかしてそれ、別に意味だとかの無い、ただの癖なのかな。セシルは隣で、兄を見詰めている。

「……兄さん以外も、こんな風になっているのかな?」
「だとしたら、エクスデスなどは、ただの樹か、芽にでも戻っているのか」
「それは……本人には悪いけど、ちょっと面白いね……」
「うん……」

ゴルベーザはセシルの言葉に小さく頷き――すぐさま顔を跳ね上げた。

「どうかした?」
「……」

口元へ手をやり、目を見張る。
問い掛けるセシルには取り合わず、ゴルベーザは竦みすらして身を固くして、背後の岩壁に背を寄り掛けた。

「……これは、……っ」
「どうしたの、兄さん」

呻き、戦慄く兄に身を寄せて、セシルはその手を手に重ねる。また呼び掛けて、問い掛けた。
小さな身体が、酷く震える。ゴルベーザは惑う瞳でセシルを見付けて――セシルに一途に見詰められ、観念したように口を開く。

「……意識が、揺らいでいる」

戸惑い、迷って、躊躇して。
眩暈が、する。頭の中に霞が掛かるような感じがして、ああ、まるで、ものを考え付かない……。ゴルベーザは己の衣服の胸元を、ぎゅっと掴んだ。

「……身体だけじゃない、いや、身体に引かれて魂までもという事なのか……?心までもが、巻き戻っている……?」
「兄さん」
「!……」

三度セシルに呼ばれて、ゴルベーザはびくりとして――やがて肩を落とし、深く俯く。

「まずい、な。……時が経つにつれ、意識や記憶までもが遡っているようだ」
「それって……?」
「魔力の総量が足りないというだけではない、黒魔法の術式自体が思い出せない……」

言って、ゴルベーザは片手を挙げて、指で印を結び、呪文の初手を唱えて……それより先を刻む事が出来ず、ただ拳を握り、かぶりを振った。

「……兄さん」

セシルは小さな兄の肩に触れ、その身体を腕の内へと抱き寄せる。
驚いて、引き入れた手足が逆らい、暴れもしたが、構わず抱き締めて、無理にでも抑え付けた。
騎士の鎧を掻いた手が、次第に力を失くして、下方へ垂れる。

「セシル」

ふと名を呼んで返して、ゴルベーザはセシルの鎧に触れた。
幼い手指が、白銀を確かめるようにして、鋼をなぞる。

「このまま、お前の事までもを忘れてしまったら、…………」

――何と、言ったのだろうか。
か細い声は鎧の胸で消え入って、けれど、セシルはそれを尋ねる事はせず、小さな身体をただ抱いていた。

「大丈夫だよ」
「どうだろうな」

気弱な台詞だ。らしくも無い。
ああ。確かに、不可解ゆえの不安はあるけれど……セシルには、きっと大丈夫だ、としか言えなかった。
ただの気休めばかりでは無くて、こうして抱き締めている兄の事が、何より確かなものだと感じられて。こうして手を離さずに居れば、きっと、絶対、大丈夫。どうしてだろう、確信めいた思いをもって、そう言葉にしていた。

「兄さん」

セシルは考える。この思いとか、信頼とか。肌身や胸で感じる温かさとか。それが、兄と自分との絆というものなのかも知れない……。

「……」

セシルは固く絡めた腕を解き、ゴルベーザを膝へ乗せた。
そうして背を屈め、顔を近付ける。それに気付き、ぎょっとして、ゴルベーザは慌てた。

「! 何を……?!」
「これがトードの魔法なら、キス一つで治るのに……って、僕は乙女じゃないけどね」

頬をかすめた唇を、顔を背けてゴルベーザがかわす。

「そんな……そんな事をしても無駄だ!離せ、セシル!」
「……」
「な、何だ」
「兄さん……可愛い」
「ばっ!!馬鹿を言うな……ッ!!」
「……兄さん」

静かに、しかし声音は強く呼び掛けられて。思わず結んだ唇に、すいと唇が重なる。
見開かれた目と、同じ色の彼の瞳。柔らかい感触――ポーションの香り。
軽く触れるだけして唇は離れ、眼差しは交わって。呆けた顔を、潤んだ瞳がつぶさに映した。

「兄さん……」

セシルはゴルベーザを乞い、そして何かを口ずさみ、また顔を寄せる。
名を呼び返そうと動いた唇を、待たずに唇が塞いだ。


――と。
眩く、明々と、明瞭に。そこで、あの時のように光が弾けた。










「…………に、兄さん。重い……っ」

ううっ、と押し潰れたかというような。眼下からの呻き声で、ゴルベーザはしょうきにもどった。
重々しい甲冑にてその身を包んだゴルベーザが、彼より遥かに小柄なセシルのその膝の上に乗っている、という。
この状況に気付き、思い至って、即座に退いて離れようとして――当然と言えば当然ながら、ゴルベーザもそしてセシルも、体勢を崩してしまった。
黒い巨体が白銀の騎士を押し倒し、縺れ合い、転げるようにもして、二人はその場へ倒れ込む。がしゃがしゃ、どしゃり、と騒音と共に砂塵が舞い、散った。

「!!……い、痛、……っ!」
「セシル!!す、すまぬ」

絡まった四肢をどうにか解き、未だ渓谷の地表に手足をついたままで、顔を見合わせる。

「……兄さん、元に……」
「あ、ああ…………うむ」

地に安座してセシルは兄を仰ぎ、ゴルベーザは己の姿を見て確かめて――無意識に手をやっては口元に触れていて。
はっとして、内心、うろたえて。魔人は己の仮面をその掌で覆った。

「もしかしたらとは思ったけど……良かった、本当に効いて」

花咲くように、セシルは笑う。
ゴルベーザは唸り、呻き、また唸った。

「あっ、ああ……効いた、のか。あれが」
「うん、エスナが効いて良かった」
「……」
「効果覿面だね」
「……ああ」

いつの間に、セシルはそれを唱えたのか。己は、いつの間にそれを受けたのか。
そう言えば、それらしき詠唱を聴いたような覚えもあり――だが、思い返して脳裏に甦るのは、そんなそれよりあんなあればかりで、ゴルベーザは早急に思考を打ち切り、考えるのをやめた。

「ああ、本当に、ただの状態変化だったんだね、本当に良かった」

何が起こるか分からないものだね、怖いね、用心をしなくては。だけど、うん、良かった。良かったよ。にこにこと笑うセシルを横目に、ゴルベーザは酷く脱力して……しかし、そうしてすっかり気抜けてしまったのを誤魔化すようにして、姿勢を正して固く腕などを組んだ。
ゴルベーザは己の思う目的の為にこの世界を探ってはいたが、ちょっと、やり切る自信を失くしそうになる。世界の不思議を、思い知った。あと、予期せぬ出来事というものの威力を。ああ、驚かせてくれる。勘弁してくれ。恐ろしい。

『――お前達カオスの戦士は皆、その身体の根底の所から混沌の力の庇護下にあるのだから、あまり調和の側には寄り掛からぬように』

そういう我らの主将たるガーランドの言い付けを、今度からはもう少し守ろう。うん。
多分それは、調和の戦士達にも言える事なのだろう。混沌と調和は、相容れるものでは無いという。ゴルベーザはやはり腕組みをして、前を向いたままで、目線だけを隣へ向けてセシルを見詰めた。

「……兄さん」
「?」

地に垂れ広がった外套の端を、不意に掴まれ、引っ張られて。ゴルベーザは兜から覗く眼光を瞬かせた。
セシルは兄の外套を腿の上まで引き寄せて、手の中に引き込み、もじもじとする。

「もしかしたらエスナが効くかな、とは、もっと前に気付いていたんだけど……ああ、けど、本当にそれが効くかどうかは分からなかったから……と言うか、その」

外套を持って引き上げ、己の口元をそれで隠して。
セシルは上目遣いに、ゴルベーザを見た。

「……キス、したくて。兄さんと」
「……」

漆黒の鎧の肩当てが、僅かにぶれた、ような気がした。
固く腕組みをしたままで、ゴルベーザは赤い顔のセシルを見て返す。

「……戻って、良かったね」
「…………うむ」





争い、薙いでは打ち、或いは射ち。壊し壊され、因果は廻り。
永遠に続くかと思われた闘争の、その均衡がいつしか崩れ、狂いもして。
それらの変動は、各々が属する神の意力をも揺るがして、そうした余波が更なる変化を生み――対立をする魔人と騎士が、相容れないものであるお互いを真向かいにして地べたに座り、どこか面映げに窺い合い、声を掛け合う。

そんな模様を、月だけが見ていた。




<終>
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