2017-01-01 22:47

■ガーゴル

■ガーゴル。サード兄さんと猛者マント。

「……随分と、まぁ、酷い格好だな」

腰巻き一丁で飛び降りて来た奴に、思わず唸り、呟いた。
ゴルベーザはそこへ降り立つなり、ぐるりと周囲を見渡して、辺りを探って――ああ、何だ、加勢をと思ったのだが要らぬ世話だったか……などと、血塗れで言う。
そして、こちらには一瞥すらせずにさっさと歩き出した。

「おい、こら!待て、ゴルベーザ。はっきり言わねば分からんのか、どうしたのだと訊いておるのだ」

いや正しくは『歩いている』のでは無くて、魔法か念力だか、奴はそれでふよふよと身体を宙に浮かせて移動しているのだが……そんな事はどうでもいい。先に行こうとするゴルベーザを、呼び止める。
いつものままなら、背のマントなり後ろ髪なりを引っ捕まえてやる所だが――半裸の背中を追い掛けて、袈裟懸けの傷痕を見て、掴み所を迷った挙句に早足で追い抜いて前へ回り込んだ。

「……」

進路を遮るわしを見詰めて、ゴルベーザは小さな角度で首を傾げる。

「――そういうようには、聞こえなかった」

ああ、尋ねて来たのだとは全く分からなかった、とゴルベーザは言うのだ。つまり、そうと分かるように言わないのが悪い、だから自分には落ち度など無い、と?そうして非難をするような、あからさまな口調と目線で。
実際、はっきりと訊いた訳でも無いのでその通りだと言えばその通りなのだが、ただ悪し様に責められては腹も立つ。
だが、しかし、怪我人相手に噛み付いて返すのもどうかとは思う。別に、ただただそんな言い方をしたというだけで喧嘩を売っているという訳でも無いのだろう、恐らくは(こいつはいつも顰め面なので機嫌が読めん)。
一息の間を置いて、そういうゴルベーザに改めてまた尋ねた。何だ、どうした、一張羅を破かれたか?怪我をしたのか?多少の意趣晴らしも込めて、気になる事を全部言う。

「ああ、ばっさりとやられた。敵の数を見誤った、油断をしたのだ」

――だが、まぁ、切られたのはマントと薄皮一枚ずつだ。痛いは痛いが、動けぬ程でも無いし、深い傷では無い、多分。
立ち塞がるわしの前で腕組みなどして、淡々と話すゴルベーザ。
大した事では無いと言いたいのかも知れないが、そう言うという事が、それこそまるで言い訳のようだというかただの意地っ張りだというか。内心、少し呆れたが、それは言うまい。
しかし、多分、は無いだろう。かなり血が出ている。そんな適当に片付けてしまって良いものなのか?――ああ、いや、そこで呼び止めて帰るにも休むにも邪魔立てとなるような真似をしているのはわしなのだが。
ケアル、は使えないのだったか、こいつは。わしも白魔法は使えない。

「……伏兵が居たか。手分けしてというつもりが、結局、そちらにばかり負担をさせたな」

言いながら、道具入れを探る。
別に――構わない、とでも言いたかったのか。続けて何か言いかけたゴルベーザを無視して、懐から取り出したポーションの瓶を開け、差し出してから逆さにする。
中を満たしていた薬液が、瓶の口から流れ出て。適当にそれを振ったりして、ゴルベーザへ中身をぶっ掛けた。

「……っ!?」

怯んだ様子。驚いて、反射的に閉じた瞼。流石の魔人ゴルベーザも敵意も無しにいきなり来られては、咄嗟に何を返す事も出来ずに、こう、びくりとするだけか。
カオスの側の者達は、総じて個性的で自立心が強く誇り高い、なんて言えば聞こえだけは良いが。だから絶対、手当てをと申し出ても避けるだろうな、とか、素直には受け取らないだろうな、などと考えて、いきなりそうした。だから加減も無茶苦茶で、頭から液体の全部を引っ掛けたような具合になる。
ゴルベーザの奴の銀髪から顔から、薬液が垂れて流れた。そうずぶ濡れで、厳めしい作りの顔を更にきつく目線を鋭くして、ゴルベーザはわしを睨む。
わしが手にしているのはポーションの瓶で中身もちゃんと本物のそれで、あちらは血を流す程度の怪我をしていたのだ。治癒効果ももう出ている筈だ、痛みも消えて来た事だろう。
状況だけを鑑みれば、一応、間違いは無い。が、ぽたぽたと薬液を滴らせながらわしを見る奴の目は、やっぱりきつい。

「……私はそなたに、感謝をすればいいのか?」
「そうしてくれると、嬉しいが」

いつも以上に重い声音で、ゴルベーザはわしに言う。皮肉か非難か困惑かその全部か、そんな感じだ。戸惑いと憤りだけは確実に見て取れる。
まぁ、もう今更だ。乗り掛かった船とやらだ。そう思う。
わしは自分の装備の留め具を外し、身に着けていたマントを手で掴んで、奴に引っ掛けた。
また怯んだのを捕まえて、包み込むように頭にかぶせて、布地を押し付けて濡れた髪やらを拭ってやる。反射的に振り上がった腕を適当に払い、大人しくしろとばかりに強めにそれをした。
ああ。大きな犬か何かを洗っているような気分だ。実際には犬どころか、ベヒーモスとかそういうものの方に近いが。それらしく、反撃のメテオが来るかも知れない。

「ガーランド!!」

堪えかねた、という声。やめろとか余計なお世話だとかもういいとか。
布で包み込まれたゴルベーザはこちらの事など見えていないので、わしのマントをただ掴み、大きく身体を揺すってどうにか振り払おうとする。そして落ち掛けた布を拾い、ゴルベーザの肩に巻き付けた。
そうして肩に掛けてやった所で、目が合う。『月の民』だとかいう生まれによるものなのか?不思議な色合いの瞳が、ぱちくりと瞬いた。
混乱しているのか、ゴルベーザは呆然としている。ぼさぼさにしてしまったその髪。自分でも行動が唐突過ぎたという自覚はあるので、可笑しいだのとは言わないが……常日頃のこいつの猛々しさなどからすれば、らしくも無いその困惑をした様子に、思わず笑ってしまいそうになる。
それこそメテオが降って来そうなので、誤魔化すように一歩離れて、手でマントを押し付けるようにゴルベーザの肩を押した。

「貸してやる。そのままでは丸裸のようで、格好が悪い」

間抜けだとか見苦しいとか、そう言いかけてから少し考え、適当に言う。寒いだろう、とか。
わしのマントを掛けたゴルベーザは、まだ落ち着かないのか、ただわしを見ている。ぽかんと開いたままだった口が、漸く動いた。

「だが……早く洗わなければ、染みになるぞ」

……開口一番に、物凄く普通の心配を。
勢い任せに頭を揺さぶり過ぎたのかも知れない、それともこれがこいつの素か?
ああ、薬液が染み付いてしまったからな、そうだな、そうだろうな。うん――駄目だ、今度こそ耐え切れずに、仮面の中でつい笑った。

「ああ。なら、あとで洗って返してくれればいい」
「……」

腹を抱えて笑ってやりたいが、そこまでは我慢する。
マントを突き返されるか何か言われるかをされる前に、わしはとっとと歩き出した。裸のままで行かせるのはどうかと思った、というのが結局の実際の本音だ。嘘では無いが、親切心などというものでも無い。だから、もうこれ以上に言ってやるべき事も無い。
ゴルベーザも、黙ってついて来る。

「そなたは、世話焼きなのだな……」

幾らか後に、後ろでぽつりと呟いた。
ああ、わしは一応貴様らの纏め役で、こっちの側の奴はどいつもこいつも自分勝手で面倒を掛けて来るが貴様などは特に危なっかしいからな、などと返して、身体を捻って振り返って。

「何だ、じろじろと」

そこで、気が付く。本当に何だ。話を聴くよりただ見入っているという感じのゴルベーザに、ついこちらまでじっと窺うようにして尋ねた。

「いや……そなたの背中は広いな、と」
「見惚れたか?」
「ああ」

――奴の返事に対して、冗談のつもりで言ったのだが、普通に肯定をされてしまった。
いや、戦士としての己を誇る気持ちがあるし、だからこう体格を褒められたなら悪い気はしない。だが、しかし、ああ、もしかして冗談に冗談を返されたという、それか?笑うべき所か、ここは?いやいや、そもそも単にゴルベーザはそう後ろに居たのだから前のわしをそのまま見ていたというだけで、そこでわしがそう言ったから、こう返って来た、というだけの話か?

「……背丈も体格も、そちらとさして変わらぬだろうに」

何となく気まずい思いをして、平静を装い、ただ聞き流すようにして極力軽い声音で話す。
そんなわしに倣ってか、ゴルベーザもまた気安く話し掛けて来た。

「次からは、そなたのその背に頼ろうか」
「盾にする気か?……ふん、やれるものならやってみろ」
「私は所詮、魔道士だからな。そう謙虚にナイト殿が盾役を担ってくれるというなら、それはとても有り難い。安心だ」
「どういう攻撃でも何でも引き受けられそうなそのなりで、よく言う」

会話をして、お互いに揶揄をして笑って、気付けば並んで歩いていて。
ああ。わしのマントを纏って歩くゴルベーザというのは、何だか変な感じだった。




<終>

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